最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)356号 判決 1969年9月02日
上告人 吉村東照 外一名
被上告人 国
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人戸田宗孝、同富田晃栄、同萩原克虎の上告理由第一について。
原判決挙示の証拠関係に照らせば、所論の点に関する原審の認定判断は首肯することができ、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。
同第二点について。
訴外中尾初二が、上告人らに対する保証債務の弁済の手段として、真実第一審判決添付目録(一)および(二)の不動産について、売買契約および代物弁済契約を締結し、それぞれ原判示の登記を経由したことを前提とする所論は、原審の認定にそわない主張であるから、採ることができない。そして、不動産の真実の所有者は、所有権に基づいて、登記簿上の所有名義人に対し所有権移転登記手続を請求することができることは、当裁判所の判例(最高裁昭和二八年(オ)第八四三号同三〇年七月五日第三小法廷判決民集九巻九号一〇〇二頁、同昭和三二年(オ)第八八〇号同三四年二月一二日第一小法廷判決民集一三巻二号九一頁)とするところであり、いまこれを変更する必要は認められない。論旨は、独自の見地に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。
同第三点について。
債権者が、民法四二三条一項により、適法に債務者の第三債務者に対する権利の代位行使に着手し、その旨を債務者に通知し、または債務者が右事実を知つたときは、その後債務者は、右代位行使の目的とされた権利を処分することはできないと解するのが相当である(大審院昭和一三年(オ)第一九〇一号同一四年五月一六日判決民集一八巻九号五五七頁参照)。これを本件についてみるに、被上告人は、本訴において、適法に中尾初二に代位して同人の上告人らに対する原判示所有権移転登記手続請求権を行使しており、原審の認定によれば、中尾初二は、おそくとも第一審裁判所から証人尋問のための呼出状の送達を受けた昭和四〇年七月四日頃までに右代位行使の事実を知つたというのであるから、その後中尾初二は、右登記手続請求権を処分することはできないというべきである。
ところで、本件においては、上告人らが、第一審において敗訴し、それぞれ前記目録(一)および(二)の不動産について中尾初二に対し所有権移転登記手続をすべきことを命じられ、控訴したのであるが、上告人らの主張によれば、中尾初二は、かように訴訟が控訴審に係属中である昭和四一年二月三日に、しかも第三債務者である上告人らに対し、それぞれ右目録(一)および(二)の不動産を贈与したというのであり、また、原審の認定によれば、中尾初二と上告人らとは原判示のような密接な関係にあるというのである。そうすると、かような事実関係によるときは、中尾初二がしたという右各贈与は、すなわち右代位の目的とされている登記手続請求権を消滅させて処分する行為にほかならないものと解される。したがつて、上告人らの右贈与に基づく主張は採用することができないものというべく、これと同趣旨に出た原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採ることができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本正雄 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)
上告理由<省略>